この記事では、慶應義塾大学の総合型選抜のうち、「学力重視型」と呼べる入試についてご紹介します。とくに、文学部の自主応募制推薦入試を中心に、あわせて法学部のFIT入試B方式を取り上げます。

総合型選抜は、入試ごとに選考のパターンやコンセプトが大きく異なります。その多くは、活動実績や課外での取り組みを重視するもので、「特別な実績がある人のための入試」というイメージを持たれがちです。ところが、そのなかには、実績よりも学力を軸に合否を決める「学力重視型」と呼べる入試も存在します。

この学力重視型は、一般選抜に向けて勉強を積み重ねてきた受験生にとって、これまでの努力をそのまま活かせる入試です。言い換えれば、一般入試を主軸に考えている方でも、慶應合格の可能性をもう一つ広げられる選択肢になり得るということです。以下のような方にとって、きっとお役に立てる内容です。

  • 慶應義塾大学文学部を第一志望に考えている人
  • 一般入試を軸にしつつ、総合型選抜での併願も検討している人
  • 全国レベルの実績がなくても挑戦できる総合型選抜を探している方

「総合型選抜は自分には関係ないのでは?」と感じている一般受験生の方こそ、読んでいただきたい内容です。ぜひ最後までご覧ください。

慶應の総合型選抜にも「学力重視型」がある

以前の早稲田大学の記事で、総合型選抜は選考の設計から「実績重視型」と「学力重視型」の二つに分けて捉えられるとご紹介しました。この見方は、慶應義塾大学の入試にもそのまま当てはまります。

https://sola.education/article?id=zq9m9zohk

慶應の学力重視型が向いている人

慶應の総合型選抜のなかには、SFC(総合政策学部・環境情報学部)のAO入試のように、独自の活動や構想を前面に打ち出す実績重視型があります。一方で、実績のハードルはそれほど高くなく、当日の学力でほぼ合否が決まる学力重視型の入試も存在します。その代表が、文学部の自主応募制推薦入試です。

両者の違いを整理すると、次のようになります。

観点

実績重視型

学力重視型

評価の重心

活動実績・面接

評定・筆記審査

面接

あり

なし、または比重が小さい

1次選考の負担

大きい(倍率が高い)

小さい(倍率が低い)

求められる実績

全国レベルなど

全国レベルは不要

2次の学力試験

なし・難易度低い

負荷が大きい

慶應での代表例

SFC AO入試

文学部 自主応募制推薦入試

この記事では、学力重視型の代表である文学部 自主応募制推薦入試を中心に、あわせて法学部のFIT入試B方式についても取り上げます。いずれも、一般入試を軸に考えている受験生にとって、検討する価値のある入試だと考えられます。

文学部 自主応募制推薦入試①:書類審査の負担が軽い&専願制

自主応募制推薦入試の流れ

まず、選考の入り口にあたる1次選考(書類審査)から見ていきます。

この入試では、面接が課されません。出願時に自己推薦書、調査書、評価書を提出しますが、受験生自身がまとめる中心は自己推薦書(約1200字)です。そして、書類だけで受験生を絞り込む一次選考や、その合格発表はありません。つまり、入り口である一次の負担は非常に軽いのが特徴です。

活動実績は求められますが、全国レベルの華々しい実績は必要ありません。この点は、独自の活動を強く問われるSFCのAO入試とは対照的です。

出願資格として押さえておきたいのは、次の二点です。

  • 現役生のみが対象であること(浪人生不可)
  • 調査書の全体の学習成績の状況(評定平均)が4.1以上であること

評定4.1という数字は、早慶に限らず他大学も含めて、総合型選抜としては特別に高い水準ではありません。条件を満たしている受験生は多くいらっしゃることともいます。

もう一つ大切なのが、この入試が専願であるという点です。慶應義塾大学文学部を第一志望とし、合格した場合には入学することが前提となります。したがって、力試しで気軽に受けるというより、文学部を本気で目指す人に向いた入試だと言えるでしょう。

提出する自己推薦書でも、華やかな実績よりも、文学部で何を学びたいのか、これまでどのように関心を深めてきたのかを、自分の言葉で示すことが求められます。字数の指定はありませんが、所定用紙の記述欄に書けるのは、合計1200〜1300字程度が目安となります。総合型選抜の中でも、書類の文字数が少なく、負担が小さい点が特徴です。

なお、2026年度入試では、志願者390名に対して合格者は116名でした。例年の倍率は約3倍と早慶の総合型選抜としては非常に低い水準です。

ただし、文学部は、一般入試の倍率も例年3倍程度であり、実は自主応募制推薦入試と比べても多少高い程度です。この倍率の類似性や低さからも、自主応募制推薦入試は総合型選抜としてチャレンジしやすく、合格ハードルも慶應の他入試と比べて低い点が魅力です。

過去3年間の倍率

入試区分

年度

受験者数

合格者数

倍率

自主応募制推薦入試

2026

390

116

3.3

2025

358

127

2.8

2024

275

129

2.1

一般選抜

2026

4764

1210

3.9

2025

4261

1279

3.3

2024

3796

1196

3.1

文学部 自主応募制推薦入試②:2次の総合考査が合否を分ける

この入試の核心は、二次にあたる総合考査です。合否は、この総合考査でほぼ決まると考えておくとよいでしょう。試験は、総合考査Ⅰと総合考査Ⅱの二つで構成されます。

自主応募制推薦入試の試験内容

総合考査Ⅰ

総合考査Ⅱ

試験時間

120分

60分

内容

設問1:傍線部説明問題
設問2:傍線部説明問題
設問3:和文英訳
設問4:和文英訳

テーマ型の小論文

字数の目安

設問1・2は1問あたり240〜300字程度

320〜400字程度

辞書の持ち込み

不可

不可

総合考査Ⅰは、日本語の評論を読んだうえで、二つの力を問う試験です。一つは、傍線部について筆者の主張をふまえて説明する記述問題で、近年の出題では一問あたり240字から300字程度が求められています。もう一つが、本文中の指定された箇所を外国語に訳す問題です。英語、ドイツ語、フランス語、中国語から選べますが、多くの受験生は英語、つまり和文英訳を選びます。

ここで注意したいのは、辞書の持ち込みが認められていないことです。慶應文学部の一般入試の英語では、英和辞典・和英辞典などの辞書の持ち込みが認められていますが、自主応募制推薦入試では持ち込み不可となります。この違いにより、和文英訳の難易度は事実上上がっており、この試験の大きな山場になります。

総合考査Ⅱは、別の課題文を読み、示されたテーマについて自分の考えを述べる小論文です。近年は320字から400字程度でまとめる形式が続いています。

合計180分におよぶ記述中心の試験は、大学入試の小論文型の試験としては、時間・分量ともに負荷が大きい部類です。加えて、小論文と記述による一本勝負であるだけに、その難易度は高くなります。当スクールの指導経験からも、一般入試の小論文以上に入念な対策が必要だと考えています。

逆に言えば、「小論文と和文英訳」さえ仕上げれば、自主応募制推薦入試で慶應文学部の合格が狙えるということです。社会や英語の全範囲をひととおり固める必要がある一般入試とは、負担のかかり方が異なります。しかも、自主応募のために積んだ小論文と和文英訳の対策は、一般入試の小論文や英語にもそのまま生きてきます。むしろ、一般入試にとってよい準備になると考えられます。

対策の方向性としては、総合考査Ⅰの和文英訳では、難しい日本語をそのまま訳そうとせず、いったん平易な日本語に言い換えてから英語にする力が有効です。総合考査Ⅱの小論文では、現代社会や人間・言語・文化に関わる評論が題材になりやすく、日頃から抽象度の高い文章を読み、自分の考えを短くまとめる練習が生きてきます。いずれも一朝一夕で身につくものではないため、早い時期から過去問に触れ、記述の型を体に入れておくことが大切です。

法学部 FIT入試 B方式:地方出身者に向く、今年度が一つの節目

もう一つ紹介しておきたいのが、法学部のFIT入試です。FIT入試にはA方式とB方式があり、A方式が活動実績を重視するのに対し、B方式は学業成績を重視する方式です。

両方式の違いを整理すると、次のようになります。

法学部FIT入試:A方式とB方式の違い

観点

A方式

B方式

重視する点

活動実績(自己推薦書を提出)

学業成績(評価書を提出)

評定の要件

なし

評定平均4.0以上

地域ブロック

なし

あり(全国7ブロック)

2次選考

模擬講義・論述試験+口頭試問

総合考査Ⅰ・Ⅱ+個人面接

B方式は、評定平均4.0以上を出願要件としています。提出書類の負担は比較的軽く、倍率も突出して高いわけではありません。実際、近年のB方式の最終倍率は、法律学科・政治学科とも2倍台後半で推移しており、A方式(5〜6倍)と比べても、相対的に入りやすい入口だったと言えます。求められる実績も、全国レベルである必要はありません。二次選考では総合考査Ⅰ・Ⅱと個人面接が課されます。面接がある点は自主応募と異なりますが、二次の総合考査は比較的取り組みやすい水準だと捉えています。

B方式の大きな特徴は、地域ブロック制です。全国を7つのブロックに分け、それぞれから合格者を選ぶ仕組みのため、地方出身の受験生に相対的に有利にはたらきます。つまりB方式は、評定という形で日頃の学業を積み重ねてきた受験生が、比較的少ない競争のなかで慶應法学部を狙える方式でした。この点も、一般入試を軸にしてきた受験生と相性がよい理由の一つです。

ただし、ここで押さえておきたい大きな変更があります。慶應義塾大学法学部は、2028年度入試からFIT入試を刷新すると公表しています。

2028年度以降の新FIT入試との比較表

観点

現行(〜2027年度入試)

新FIT入試(2028年度入試〜)

方式区分

A方式・B方式

統合(区分なし)

地域ブロック

B方式であり

廃止

出願要件

B方式は評定4.0以上

評定3.7以上+外国語学習を含む活動

2次選考

方式ごとに異なる

模擬講義・論述試験+総合考査+口頭試問

A方式とB方式は統合され、B方式の地域ブロック制は廃止される予定です。あわせて、評定平均3.7以上などが新たな出願要件になるとされています(詳細な募集要項は2027年6月上旬頃に公表予定)。つまり、地域ブロックのある現行のB方式で受験できるのは、2027年度入試が一つの区切りになります。地方出身で、一般入試を軸にしつつ慶應法学部も視野に入れている人にとっては、今年度の機会を検討する意味があると考えられます。

新FIT入試の変更点

慶應の学力重視型が向いている人と、併願戦略

ここまで見てきた入試は、どのような受験生に向いているのでしょうか。そして、一般選抜とどう組み合わせればよいのでしょうか。少し踏み込んで整理していきます。

慶應の学力重視型が向いている人

①一般入試で慶應文学部を志望している人

自主応募制推薦入試の対策は、そのまま一般入試の小論文や英語の準備にもなります。専願である点は確認が必要ですが、文学部を第一志望に据えているのであれば、受けておくメリットは大きいと言えるでしょう。

ここで、総合型選抜とと一般入試とで対策が重なる部分を整理しておきます。どの部分に独自対策が必要で、どの部分が一般入試と共通するのかを把握しておくと、準備の見通しが立てやすくなります。

入試

独自の対策が必要な部分

一般入試と重なる部分

文学部 自主応募制推薦入試

総合考査Ⅰの傍線部説明問題(設問1・2)・和文英訳(設問3・4)

テーマ型の小論文(自主応募では総合考査Ⅱで出題)

和文英訳は、一般入試の英語の試験において2023年度以前に出題されていましたが、2024年度以降は自由英作文の導入に伴い、和文英訳問題は出題されていません。ただ、これは直近数年の出題傾向であり、和文英訳が一般入試でも再度出題される可能性は十分にあります。したがって、自主応募制推薦入試の和文英訳対策を行うことで、一般入試の準備も兼ねることができます。

また、自主応募制推薦入試では、総合考査Ⅰにて傍線部説明問題が2問出題されます。イメージに最も近いのは、現代文の記述模試です。指定されたテーマに対して、自分の意見を論述するタイプではなく、筆者の主張をもとに対比関係や論理関係をまとめるという内容になります。

一般入試の小論文では、こうした傍線部説明問題は出題されないため、自主応募制推薦入試特有の対策になります。

一方、一般入試と重なる点として、テーマ型の小論文(意見論述型)が挙げられます。自主応募制推薦入試では、総合考査Ⅱ(60分)が丸々それに該当します。一般入試の小論文でも、毎年設問2において、意見論述型の小論文が出題されていますので、共通の対策で賄うことができます。

このように、学力重視型は「総合型のためだけの特別な準備」が比較的少なく、一般選抜の学習と両立しやすいのが利点です。

二つ目:地方出身で、一般入試を軸にしながら慶應法学部も狙いたい人

FIT入試B方式の地域ブロック制は、こうした受験生に向いています。前述のとおり、現行方式は2027年度入試が最後となります。地方にお住まいで慶應法学部に関心のある方は、この機会を一度検討してみる価値があります。

総合型選抜は「実績がある人だけのもの」ではない

総合型選抜には全国レベルの実績が欠かせない、という思い込みは、必ずしも当てはまりません。入試を選べば、学力で勝負して合格できる道があります。

以前ご紹介した早稲田大学の学力重視型とあわせて考えると、共通点が見えてきます。早稲田の国際教養学部AO入試は英語を軸に、慶應文学部の自主応募制推薦入試は小論文と和文英訳を軸に評価される入試です。いずれも、一般入試では手を広げなければならない科目まで勉強せずに済むという利点があります。国際教養学部や慶應文学部を一般入試で志望している人とは、とくに相性がよい入試です。出願要件を満たすのであれば、併願先として前向きに検討してみてください。

【最新動向】総合型選抜の「面接必須化」と、慶應の学力重視型への影響

慶應の学力重視型、とくに文学部の自主応募制推薦入試は「面接がない」ことが一つの特徴だとお伝えしてきました。この点については、近年の制度変更をふまえて、あらかじめ知っておいていただきたい動きがあります。

総合型選抜の面接必須スケジュール

何が決まったのか

文部科学省は、2026年5月に「2027年度大学入学者選抜実施要項」を各大学へ通知しました。そのなかで、総合型選抜および公募制の学校推薦型選抜について、志望する学問分野への意欲や適性などを見る「面接による評価」を、原則として必ず行うこととされました。ここでいう面接には、個人面接だけでなく、ディベート、集団討論、プレゼンテーション、口頭試問なども含まれ、オンラインによる実施も認められています。あわせて、活動報告書や志望理由書、学修計画書といった資料も、必ず評価に活用することが求められています。

背景には、一部の大学で、学力検査の成績に大きく偏った合否判定が行われ、実質的な「一般選抜の前倒し」になっているのではないか、という問題意識があります。あわせて、総合型選抜においても「学力の3要素」、すなわち知識・技能、思考力・判断力・表現力、そして主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度を、バランスよく評価すべきだという考え方が根底にあります。面接や提出書類は、このうち意欲や主体性といった側面を確かめる手段として位置づけられています。

いつから始まるのか

この面接の必須化は、2027年度入試から原則として適用されます。ただし、前年度に学力試験を課していたなどの理由で、2027年度からの導入が難しい選抜区分については、遅くとも2029年度入試までに導入すればよい、という2年間の経過措置が設けられました。

慶應の学力重視型への影響をどう見るか

今回取り上げた二つの入試を、この観点で見てみます。

文学部の自主応募制推薦入試は、現状では面接を課していません。そのため、この入試は将来的に、面接や口頭試問などの評価が加わる対象になり得ると考えられます。一方、法学部のFIT入試は、A方式・B方式ともに口頭試問や個人面接をすでに課しており、2028年度からの新FIT入試でも口頭試問が含まれる予定です。つまり、FIT入試はこの方針にすでに沿った形になっていると言えます。

もっとも、各大学が具体的にどう対応するかは、今後の発表を待つ必要があります。現時点で、慶應義塾大学が自主応募制推薦入試の選考方法を変更すると公表した情報は確認できていません。経過措置があることをふまえると、少なくとも2027年度入試については、現行の形で実施される見込みだと考えられます。したがって、直近で受験を考えている方は、これまでどおりの対策を進めていただいて問題ありません。

おわりに

ここまで、慶應義塾大学の「学力重視型」の総合型選抜についてご紹介しました。この記事のポイントをまとめると、以下の通りです。

  • 慶應の学力重視型の代表は、文学部の自主応募制推薦入試。面接がなく一次の負担が軽い一方、合否は総合考査でほぼ決まる
  • 総合考査Ⅰは読解記述と和文英訳(120分)、総合考査Ⅱは意見論述型の小論文(60分)。総合考査Ⅰは辞書持ち込み不可で、対策の質が問われる
  • 法学部FIT入試B方式は地方出身者に向くが、2028年度入試から統合・地域ブロック廃止の予定で、現行方式は2027年度が一つの節目
  • 総合型選抜は2027年度入試から面接が原則必須化。経過措置により当面は現行のままの見込みだが、今後の発表には注意しておきたい
  • 早稲田・慶應を通じて、全国レベルの実績がなくても、学力で狙える総合型選抜がある。一般入試をメインに考えている方こそ、選択肢に入れる価値がある

慶應義塾大学を志望する皆さまにとって、少しでもご参考になれば幸いです。